三菱重工業が2024年度の経営方針と今後の勝ち筋をMHI REPORT 2024を通じて報告を行なっている。この記事では三菱重工の今後の戦略を探っていく。
三菱重工業は、グループ全体の成長を支えるために、ポートフォリオ経営の強化と資産効率性の向上に重点を置く方針が示された。まず、伸長事業と成長領域に重点的に資金を投入し、売上収益を5.7兆円以上、事業利益を4,500億円以上、自己資本利益率(ROE)を12%以上に引き上げることを目指す。特にガスタービン、原子力、防衛関連事業に約1兆円規模の投資を行い、これらの分野でのシェア拡大と収益性の向上を図る。
出典:UnsplashのPeter Werkmanが撮影した写真
ガスタービン事業の強化
2021年度に大きく受注を伸ばしたガスタービン市場では、CO2排出規制に伴う燃料転換や再生可能エネルギーの拡大による調整電源、データセンター向けオンサイト電源などで需要が高まっている。三菱重工は、高い信頼性と燃料転換技術の開発・実証を進め、将来的にはCO2回収技術との組み合わせを図ることでトップシェアを維持する計画だ。具体的には、供給能力の拡大や生産能力の増強、研究開発への積極的な投資を行い、脱炭素化市場を牽引する。
原子力事業の拡大
国の「原子力活用推進」方針に基づき、既存プラントの再稼働や燃料サイクルの確立支援、長期安定運転に向けた保全工事を推進。また、海外市場への機器輸出や次世代原子力技術である高速炉・高温ガス炉の開発にも注力する。特に、革新軽水炉「SRZ-1200®」の設計推進や、高速炉実証炉の開発を通じて、エネルギーの安定供給と環境負荷の低減を目指す。
防衛事業の強化
地政学リスクの高まりを背景に、防衛予算の増額や新たな防衛装備品の導入が進んでいる。三菱重工は、スタンドオフ防衛やミサイル防衛、次期戦闘機の国際共同開発を確実に進めるとともに、無人化技術の開発にも取り組む。これにより、防衛分野での競争力を強化し、国内外の安全保障ニーズに対応する。
成長領域の事業化推進
2021年度からの3ヵ年計画を経て、2024年度では水素・アンモニアバリューチェーンの構築を目指すGXセグメントを新設。米国ユタ州で進行中の水素プロジェクトや、CCUSバリューチェーンの構築を通じて、カーボンニュートラル社会の実現に貢献する。特に、ライセンスビジネスによる技術のマネタイズや、パートナーシップを強化し、エコシステムの結節点として機能することを目指している。
事業競争力の強化
既存事業では、収益力の回復・強化を図りつつ、新規市場への対応を進める。例えば、データセンター向けの電源・冷却システムの提供や、AIを活用した故障予測・予防保全サービスの拡充など、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進している。また、製鉄機械や物流機器の省人化・自動化技術を投入し、競争優位を維持するための技術開発にも力を入れる。技術基盤の強化も重要な戦略の一つ。最新技術の導入や研究開発への積極的な投資を通じて、持続的なイノベーションを推進する。特にAIやデジタル技術を活用した製造プロセスの高度化や、省エネ・合理化技術の開発に力を入れている。
人材育成にも注力し、デジタルイノベーション人材の確保と育成を進める。これにより、技術革新を支える強固な人的基盤を構築し、グループ全体の競争力を一層高める狙いだ。
サスティナビリティへの取り組み
三菱重工は「MISSION NET ZERO」を掲げ、2030年までにグループ全体のCO2排出量を50%削減、2040年までに実質ゼロを目指す。これを実現するために、既存インフラの脱炭素化や水素・アンモニアエコシステムの構築、CO2回収技術の拡充など、多岐にわたる取り組みを推進している。特に高効率ガスタービンの開発や、カーボンニュートラル燃料への転換技術の実証が進行中であり、これらがエナジートランジションの中核を担う。Scope1、2では生産プロセスの省エネや合理化を図り、Scope3では水素・アンモニア燃焼技術やCCUS事業を拡大。具体的には、高砂水素パークや長崎カーボンニュートラルパークでの実証試験を通じて、カーボンニュートラルソリューションの社会実装を推進する。
配当方針についても見直しを行い、安定的かつ予見可能な配当を実現するためにDOE(Dividend on Equity)方式を採用。2024年度には1株当たり22円、2026年度には26円の配当を予定しており、利益成長に応じた増配を目指す。
三菱重工業は、これらの戦略を通じて、140年以上の歴史を持つ技術力とグローバルな事業基盤を活かし、持続可能な成長と社会貢献を両立させる企業としての地位を強化していく。エネルギー供給と需要の両側面から脱炭素化を推進し、技術革新と市場拡大を図ることで、今後も世界をリードする企業としての役割を果たす方針だ。
参考文献: MHI REPORT 2024